Primitive Ocean

 長文になる時用のブログ。

この世界の片隅に

 素敵な映画でした。魂がふるえた、と表現するべきなのか。ストーリーの素晴らしさもそうですが、緻密な時代描写や、映像の美しさもあって、感動しました。

  戦時中を題材にしているという作品だと、反戦とか、戦争の悲惨さとか、そういうのがテーマとして描かれることが多いのですが、今作はそういうことではなく、戦時中という状況においてもなお、家族を守り、帰るべき家を守り、日常を守り、それがやがて幸せに繋がっていくんだ、ということを描いていました。

 自分の「居る場所」を、「居るべき場所」にしていく。この作品で描かれているのは、まさにこういうことなんだよね。過去に1回会っただけの周作のところに嫁いでいったすずにとっては、呉という土地は右も左も分からず、心の底から頼れる人もいない。最初のころはむしろ、広島の方が自分の「居場所」という印象が強かった。しかし呉で色々な経験をして、周作や家族とも心を通わせるようになって、出会いと別れを繰り返していくうちに、やがて呉の家が自分の「居場所」に変わっていく。焼夷弾が家に落ちてきた時に、逃げるのではなく、延焼を食い止めようとしたのも、そこがすずにとっての「帰るべき家」になっていたから、なんですよね。

 悲惨さ、というのはもちろん描かれていました。特に晴美が亡くなって、すずも右手を失う場面は、これまで当たり前のようにあったはずのものが永遠に失われてしまう哀しさ、絶望感が、これでもかっていうくらいに叩きつけられてきましたね。その重圧に耐えかねて、一度は広島に帰ることを決めるすずでしたが、自分のことを憎んでさえいたと思っていた径子の本当の気持ちを知って、自分はここに居たい、居なければならない、という自分の気持ちに気がついたのでしょうね。

 ラストに登場した孤児の少女はまるで、晴美が亡くなった直後にすずが考えていたこと、もしかしたらあったかも知れないもう一つの未来、自分が死んで晴美が助かった世界から、すずが連れてきたかのようでしたね。この少女をすずが助けることができたのも、すずが自分の家を守ることができたからであって、幸せを守ることは、いつか誰かをその幸せで救うことだってできる、ということなんだと思います。

 当時の人々の暮らしや考え方もきちんと描かれていて、丁寧に作られているという印象でしたね。とても良かったです。