Primitive Ocean

 長文になる時用のブログ。

アリシアは本当に悪女だったのか?(その2)

その1から続く。

 ただアリシアのこの行動には、いくらかの擁護もできる。

 まずアリシアオルステッドと初めて出会ってから魔王山に攫われるまで、わずか半日しか過ごしていない。いくら婚約したとはいえ、お互いが信頼関係を築くにはあまりにも短すぎる。

 対してストレイボウは、アリシアとそれなりに長い時間を魔王山で過ごしていたと考えられる。アリシアの心を自分の側に向けさせるために説得するために必要な時間は大いにあったはずだ。

 またアリシア自身も、王女という言うなれば「世間知らず」の存在であるため、ストレイボウに同情し、その言葉を素直に信じてしまったとも考えられる。

 

 ただそれでも疑問は残る。アリシアは死んだストレイボウのあとを追うように自害してしまうが、オルステッド同様にストレイボウだって、武術大会で初めて会った相手である。魔王山でストレイボウと過ごした時間だって、恐らくは数日程度だと思われるし、そんな短時間に自らの命を絶つほどにストレイボウに肩入れするようになれただろうか?

 またアリシア自身のセリフからしても、ストレイボウを愛していたとかそういったことは読み取れず、ストレイボウへの同情と、オルステッドへの非難しか口にしていない。これもまた、アリシアの自害に結び付けるには弱い気がする。

 それにいくらアリシアが世間知らずと言っても、自分を助けに来たストレイボウがすぐに下山しなかったことについても、おかしいとは思わなかったのだろうか?

 つまりアリシアの行動は、一応筋は通っているのだが、自分の意思だけでやったとなると、違和感を感じるのだ。

 

 違和感といえば、ストレイボウの行動やセリフにも違和感がある。彼は魔王山の深部で、隠し通路を見つけた時に、オルステッドに対して長年積み重なってきた嫉妬心や劣等感が一気に爆発して、自作自演の落盤を起こしたとなっているが、その後の彼はまるで人が変わったようである。

 オルステッドを絶望させるためとはいえ、ルクレチア王を殺すように仕向けているし、魔王山深部での真相を暴露した時にハッシュのことを「ハッシュの野郎が無様に死んだあとだったしな」と、仮にも勇者として活躍した男を平然と侮辱するような言葉も述べているのである。

 オルステッド本人に怒りをぶつけるのはまだ分かるとしても、それ以外の人間も侮辱し殺害するほど冷酷な性格に豹変しているのだが、魔王山深部以前の段階で、ストレイボウがそうした性格の人間だったという描写は見当たらない。

 このストレイボウも、果たして全て自分の意思で行っていたのか? と考えると違和感を覚える。

 

 だから私はこう思う。確かに彼らの語った動機自体は間違ってはいなかったのだろう。ただ彼らから自制心などの感情のコントロールを奪い、オルステッドが最終的に絶望して魔王に覚醒させるように仕向けた「何者か」がいるのではないかと。

 これを示唆しているのが、オルステッドが魔王山に2度目に登る時に登場する魔物たちである。この魔物たち、オルステッドを妨害するように出現はするのだが、「まだまだ、死ぬなよ」などと、オルステッドを山頂へと誘っているかのような言葉もするのである。あたかも山頂には本物の「魔王」がいて、オルステッドの到達を待っているのだと伝えているかのように。

 そしてこの魔物たち、ストレイボウに従っているとはとても思えない。ストレイボウは山頂に辿り着いたオルステッドに「お前はここへ来やがった!」と激怒しているからである。ストレイボウオルステッドに、王殺しの罪を被って処刑されることを望んでいたからである。だから山頂にオルステッドが現れたのは、ストレイボウにとって予想外の展開だったのだ。

 ではこの魔物たちを操っていたのは誰なのか? 実はその真の黒幕こそ、ハッシュが20年前に倒した「はず」の魔王だったのではないかと思う。

その3に続く。