Primitive Ocean

 長文になる時用のブログ。

アリシアは本当に悪女だったのか?(その3)

その2から続く。

 ハッシュは20年前に魔王を倒したとされているが、実は魔王は倒されてはいなかったのではないかと思われる。正確には、魔王を倒し切れてなかった、というべきか。

 そのことの前にまず、魔王山の深部にいた『魔王』が何者だったかについて記そう。

 

 ハッシュが20年間に倒した魔王。それは恐らく、最終編に登場するピュアオディオくらいの強さがあったのだろう。だから魔王山の深部で戦った『魔王』のことを「魔王ではない!」と断言したのである。だがその『魔王』は、本当に魔王ではなかったのだろうか?

 ハッシュは『魔王』の強さが、かつて戦った魔王よりもはるかに劣っていたことを根拠に「魔王ではない!」と断言したが、逆に言えば、その『魔王』が、本当に魔王ではなかったのかどうかについて証拠があったわけではない。

 それにその『魔王』は、ハッシュとウラヌスを一目見てハッシュとウラヌスであることを見抜いているし、ハッシュの側も『魔王』の姿を見て「魔王!」と即座に言っていることから、少なくとも容姿や知識については20年前の魔王のものを受け継いでいるとも考えられる。

 さらに決定的なのは、この『魔王』を倒すにはハッシュのデストレイルがどうしても必要な点だ。デストレイルは、魔王を倒した伝説の技とされているが、この『魔王』に対しても非常に有効である。というかこの『魔王』、ハッシュはザコ呼ばわりしていたものの、実際に戦うとかなり手ごわい。攻撃の熾烈さもさることながら、防御の高さもかなりのもので、普通の技ではろくなダメージを与えられない。ただ唯一、デストレイルだけは有効なので、戦い方も必然的にデストレイルを中心としたものとなる。

 つまり魔王を倒した伝説の技が唯一有効である『魔王』が、20年前にハッシュが倒した魔王と全く無関係とは思えないのだ。

 

 ではこの『魔王』な何者なのか。それは恐らく、魔王を倒した時に生まれた分身のようなもので、この『魔王』も実は魔王だったのではないだろうか。分身であるためにその力はオリジナルには及ばないが、それでも並みの魔物よりは強い。

 この『魔王』の目的は、オルステッドのような激しい憎しみを持った人間を生み出し、それを依り代とすることである。最終編で語られるが、魔王とはいわば、「憎しみ」が具現化したような存在であり、ゆえに完全な復活を果たすには、激しい憎しみを抱いた依り代が必要だったと思われる。

 そしてアリシアは、その準備のための駒だったのではないか? 魔王がハッシュによって倒された時に、魔王はアリシアにすでに目をつけていた。そして自らの依り代に相応しいオルステッドが現れた時に、アリシアを魔王山に攫ってオルステッドをおびき寄せ、あとは中世編本編のような展開に持ち込んでオルステッドを絶望させ、オルステッドを魔王へと覚醒させる。全ては魔王が20年前に倒された時から仕組まれていたシナリオだったのではないだろうか?

 アリシアがなぜ選ばれたのかについては分からないが、魔王にとっては、誰でもよかったのかも知れない。ただ偶然にも、魔王覚醒の条件をオルステッドが満たしてしまったから、アリシアは犠牲になった。それだけだったのかも知れない。

その4に続く。