Primitive Ocean

 長文になる時用のブログ。

おそいひと

 非常に、興味深い映画でした。扱っている題材からはショッキングな印象を受けるけど、この映画が伝えようとしていることって、実は至極当たり前の事なんだよね。しかもそれをまわりくどい方法を使わず、ストレートに大胆にぶつけてきてくるから、心の奥底を直接狙い撃ちにしてくる感じで、強烈なインパクトを受けるし、とても考えさせられる。それに丁寧に伏線が配置してあるので、なぜ住田が殺人鬼になってしまったのかもよく分かるようになっている。2004年に最初に公開された時に「障害者に対する偏見や誤解を与える」「差別を助長する」といった批判が集中して映画界から実質上黙殺されていたという経緯があるんだけど、これだけのものを見せられて本当にそんな感想しか浮かんでこなかったのか? って逆に問い返したくなるよ。
 作中で敦子が住田に向かって「障害者だからって同じだろ!」って罵るシーンがあるんだけど、正にこれが核心なんだよね。住田は重度の脳性マヒを患っているけど、くどいくらい酒を飲むシーンがあるほどの大酒飲みで、エロビデオをたくさん持っているスケベで、敦子に一方的な愛情を抱き、それを拒絶されたことが引き金になって連続殺人を起こすという、いわゆる「綺麗な」障害者とはかけ離れた存在として描かれている。けどそれは、単に障害者が健常者と同じ「人間」だからなんだよね。ゆえに良い人もいれば悪い人もいる。この作品では障害者の負の側面を極端なケースを挙げることでクローズアップして描いているというだけ。その負の側面から目を背けるのなら、それは障害者を同じ「人間」として見ているのではなく、「障害者」という別の生き物に見ているに過ぎない。ぶっちゃけた話、上記のような批判をする人間は、結局そういう考え方の持ち主なんじゃないのか? そういう人間こそが本当の意味で障害者を「差別」している「偽善者」だと思うのだが。